サイコパス 要約

1章 サイコパスとは
表面的な魅力、不安の欠如、罪悪感の欠如、信頼できないこと、不誠実、自己中心的、親しい関係を継続して作れないこと、罰から学ばないこと、情動の乏しさ、自分の行動が他人に及ぼす影響をかんがみることができないこと、将来の計画を立てられない人のことである。
特徴として、共感的な情動の欠如と、自己愛による他者への操作性、衝動性を有する。
サイコパスは二つの因子を持っている。
第一因子は、対人関係・情動項目、第二因子は、衝動的・反社会的的行動からなる項目である。
反社会的な攻撃には、
1,反応的攻撃と2,道具的攻撃がある。
反応的攻撃は、脅威にさらされたりした時に怒る攻撃のことである。
道具的攻撃とは、目的を達成するために意図して行われる攻撃のことである。
眼窩前頭皮質に損傷のある人は、衝動的に反応的攻撃を行いやすい。
道徳的規律に無関心で罪悪感や共感性に乏しい人は、反応的攻撃と道具的攻撃の両方を行いやすい。
サイコパスは、反応的攻撃と道具的攻撃の両方を行う。
反応的攻撃は、動物がとる反応で、1,脅威が遠いと身がすくみ、2,脅威が近いと逃走する。3,それでも脅威が近付くと反応的攻撃を示す。
道具的攻撃は、金銭を奪ったり、集団での地位を高めるなどの目的を達成するために行われる攻撃である。
囚人でも、第一因子の情動の問題を抱えている者と、そうでない者がいる。罪悪感に苦しむ事もなく、他人の感情に関心もない者が、サイコパスである。
ちなみに、サイコパスは再犯を犯しやすい、つまり、矯正が効きにくい。サイコパス以外の人の3倍から5倍である。
繰り返すと、サイコパスは、反応的攻撃のみならず高度な道具的攻撃を行うのが最大の特徴である。

2章 背景的情報
サイコパスの有病率は、一般社会での男性の0.75%だと推定される。
女性も、実際はほぼ同程度の有病率と思われる。
人種的影響は、殆どない。
年齢でみると、青年期だけ反社会的になる人が多いが、第一因子は年齢を重ねても変化しない。
社会的経済地位(SES)は、第二因子と相関があるが、第一因子とは相関がない。
IQの高さは、第二因子とは負の相関があるが、第一因子とは相関がない。
統合失調症は、背外側前頭前皮質に障害があるが、サイコパスは背外側前頭前皮質に問題はない。
不安障害とサイコパスの第一因子は逆相関する。
薬物依存もサイコパスの第一因子とは相関しない。
ただ、サイコパスの傾向の見られる75%の子供に、ADHDの衝動性が見られる。

3章 サイコパスの根本的原因は何か?
反社会的な行動を助長する情動障害の3分の2には、遺伝的影響がある。
反応的攻撃は、基本脅威回路が強く活性化されると起こる。
うつや不安を抱える子供や成人は、基本脅威回路が活性化されているので、反応的攻撃を起こしやすい。ただ、道具的攻撃には当てはまらない。
ちなみにうつ、不安は海馬の過活動が遺伝的にあることは指摘されている。
間欠性爆発性障害/衝動・攻撃性障害と小児期の双極性障害は、反応的攻撃を起こしやすい。セロトニン系の活動の低下が、遺伝的影響として考えられている。
低酸素分娩や妊娠中毒症などの出産時合併症は、脳損傷を起こし、反社会的行動に影響を及ぼす可能性があるが、道具的攻撃を行うようになるかまではわかっていない。
環境ストレスは、第一に脳に障害を与える。例えば虐待には、海馬の機能低下を引き起こす。第二に、基本脅威回路を活性化させる。第三に、ストレスに対してホルモンが反応する。
海馬の機能低下は、ストレスに扁桃体が反応→視床下部→下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)→副腎からコルチゾール→海馬の受容体がストレスホルモンを抑制→海馬の制御機能の低下→海馬損傷の順によってなされる。
ちなみに、サイコパスと海馬にはあまり関係がなく、関連がある扁桃体や眼窩前頭前皮質などの神経回路の低下は環境ストレスによって直接障害されることはない。
むしろストレスで扁桃体の体積は増え、扁桃体は基本脅威回路の一部であるので、反応的攻撃の危険性を増大させるが、サイコパス特有の道具的攻撃にはつながらない。
結論として、サイコパスは環境ストレスなどの社会的要因によっては説明することができない。
サイコパスの道具的攻撃は、獲得する結果を高く見積もりやすく、人との間に起こる摩擦や、社会から受ける制裁における損失を低く見積もりやすい。
サイコパスの第一因子を持っていても、SES(社会的経済地位)が高ければ、反社会的な兆候を見せない人もいる。
サイコパスは、重要な他者に対して愛着が欠如しているが、共感反応には、必ずしも愛着を必要とするわけではない。
ただ、不安定な愛着関係においては養育者が脅威となるので、反応的攻撃の危険性は増大する。
親の反社会的傾向、一貫性のないしつけ、体罰、低学歴、崩壊した家庭、幼少期の親との別離は、サイコパスのスコアの高さと相関する。ただ、中程度のサイコパスは家族からの影響を受けるが、高度なサイコパスは家族からの影響より、生物学的な影響が強い。これは一般人に見られる傾向で、犯罪者を対象とするとあまり関係がない。
一般に、しつけにおいて、恐怖によって養育する方法では、共感的な道徳性は育たず、他人への影響を想像させることをもって共感性を育てた方が、道徳社会化はうまくいく。しかし、サイコパスの発現率には、親の養育方法の違いは統計的には影響を及ぼさない。
青年期限局型行為障害の若者は、17歳付近に多く、28歳頃には犯罪をやめる。生来のサイコパス生活様式に価値を見出し、模倣している可能性があるが、サイコパスではないので、長期的な視点と生産的なやり方で自己の存在価値を証明する方法を覚えると、犯罪から手を引くようになる。

4章 サイコパス:その他の機能障害
一般に、不安が亢進すると、反社会的行動は高まるが、道具的攻撃をするサイコパスにおいては、不安の程度と情動欠如は逆相関している。
自律神経反応において、サイコパスは軽度の電気ショックを受けても、予兆となる出来事に対して発汗するなどの反応がみられない。
その他の恐怖を感じさせる刺激にも、自律神経反応が生じないか、直前のごくわずかに生じる。
恐怖場面における能動的想像でも、恐怖の生理反応は減弱している。
驚愕反射も生じず、ネガティヴな先行刺激を与えても、あまり変化しない。
ただ、唸っている犬、突きつけられた銃、切断された死体の映像に対しては反応する。
一般に、道具的学習課題には、刺激-強化の連合形成と、刺激-反応の連合形成との二種類がある。
サイコパスは受動回避学習における刺激と罰を学ぶことの成績は悪いが、個体識別反応などの刺激と反応を学習することの成績は悪くない。
応答逆転課題のような、同一の刺激に対して状況の変化とともに反応を選択制御する学習に関しては特に成績が悪い。
ネガティヴなエピソード記憶における前後の無関係な情報の記憶に関して、一般に中心となる情報と辺縁となる情報では中心となる情報に記憶が集中するが、サイコパスには大きな差が見られない。
共感能力に関しては、サイコパスの言語能力が高い場合、言語的な共感反応をそっくりそのまま模倣して表現することはできる。
ただ、他者の恐怖や悲しみなどの苦悩への生理的な共感反応は減弱しており、知人が電気ショックを受けていることに対して、皮膚電位反応があまり生じない。
他者の苦痛に関する映像では、恐怖、悲しみ、嫌悪、怒りに関する表情の認知において、特に恐怖と悲しみ、次いで嫌悪の表情認知に障害がある。
音声に関しては、恐怖と、隠された悲しみを読み取ることに障害がある。
しかし、映像、音声ともに怒り、幸福、驚きの感情に関しては正常に読み取れる。
道徳に関しては、道徳的違反と慣習的違反を区別できず、共に深刻とみなすか、共に軽視して判断の区別がない。
物語における読解においては、幸福、悲しみ、困惑は理解できるが、罪悪感には異常な反応を示す。
一般に、単語理解は中性単語より情動をかき立てられる単語に注目が集まりやすいが、サイコパスでは自律神経反応にも反応時間にも差はみられなかった。
一般に情動単語は右視野に提示すると、適切に反応できるが、サイコパスには特に見られない。
サイコパスは単語レベルの識別に善悪といった判断をあまり用いることがない。
サイコパスは情動的特徴よりも外面的特徴の方に注目し、誤りを犯しやすい。
サイコパスは抽象的な単語に特有な反応を示し、左視野に提示した方が分かりやすい。
サイコパスは一般人と比較すると感情的な反射で単語に素早く反応するということをしにくい。
サイコパスは一般の不安の低い人と比較しても、ストループ干渉を受けにくい。
一方、意味的な関連を理解する能力はちゃんとあり、プライミング効果は見られる。
ストループ干渉のタイプでも、意味関連の強い場合の方が干渉を受けやすいのも健常者と同じである。
サイコパスは課題遂行時は聴覚などの妨害刺激を強く抑制して集中できる。
しかし、その逆に二重課題遂行のような注意を分散させるような課題では、妨害刺激に強く反応しがちである。

第5章 サイコパスの認知的仮説
有力なサイコパスの認知仮説には3つある。
1,反応郡調節仮説、2,恐怖機能不全モデル、3,暴力抑制機構(VIM)モデルである。
反応郡調節仮説とは、目的志向性の行動を遂行する際に、計画を立て、実行し、それを評価するという一連の過程において、注意を素早くかつ比較的自動的に移すことで、注意を向けるべき焦点に対して辺縁の情報をモニターし、関係があるならばそれを利用することを意味する。
サイコパスでは、素早く注意を向けた焦点に対して、辺縁の副次的な情報をモニターできない点に問題があると理解される。
報酬を得るために反応するという目的にばかり目が行き、辺縁の罰に関する情報に注意が向けられないことを意味している。
また、辺縁となる情動、あるいは頻度に関する情報を適切に利用できないことも意味する。
近代の注意に関する有力モデルには、バイアス競合モデルがあるが、それによると、
生理的にボトムアップで注意を向けやすい刺激と、意識的にトップダウンで注意を向けやすい刺激が競合していると説明される。
サイコパスに関して言えば、トップダウンの目的志向性の強さがボトムアップの生理的側面の強さを上回っていることで問題が生じていると理解できる。
反応郡調節仮説に戻ると、一般に軽負荷課題では辺縁の情報が処理されやすいのに対して、重負荷課題では辺縁の情報は無視されやすい。
サイコパスでは、常に重負荷課題の条件で課題遂行を行っている状態と解釈される。
サイコパスにストループ干渉が減少するのも、辺縁の情報を無視することによって生じているものとして理解できる。
ただ、一般に注意が集中すれば情動連想も強化されるが、サイコパスには見られない。さらに、罰に関する情報が妨害のないところに提示されても学習をしないことから、情動連想や罰の学習に神経学的レベルの原因があることが指摘できる。
恐怖機能不全モデルでは、道徳社会化は、罰を与えることによって獲得されるが、サイコパスでは、罰に対する嫌悪条件付けが適切になされないために、反社会的な行動に繋がると仮定される。
事実、嫌悪条件付け、脅威予測に対する自律神経反応、視覚脅威プライミングに対する驚愕反射の増強、受動回避学習、応答逆転などの障害は、恐怖機能不全を根拠に説明できる。
ただ、扁桃体中心核が損傷されると、嫌悪条件付けは障害されるが、道具的学習は可能であり、逆に扁桃体外則基底核が損傷されると道具的学習は障害されるが、嫌悪条件付けは行われるような事実があり、社会恐怖を含む恐怖システムがどのように作動しているのかについての神経学的説明は明確でない。
また、最近の知見では、道具的攻撃を阻む道徳社会化は、恐怖によるのではなく、共感によって促進されることが指摘されている。
最後に、ただ罰を避けるだけならば、道徳的違反と慣習的違反を区別をする理由はない。しかし、健常者であれば生後36ヶ月では、道徳的違反と慣習的違反を区別することができる。
暴力抑制機構モデル(VIM)によると、VIMは、苦痛の手がかりや他人の悲しみ、恐怖の表情によって活性化され、自律神経活動、注意、脅威反応システムの活動を亢進させる。そして道徳的違反と他人の苦痛に関係付けが生じることで、そうした行動に対して嫌悪を抱き(共感)、他人に苦痛をもたらす行動を想像することに嫌悪をするようになると説明される。
サイコパスでは、他人に苦痛をもたらす行動がVIMシステムの引き金にならないと考えられている。
サイコパスは苦痛の手がかりを見ることをきっかけに嫌悪の情動反応が生じるシステムが備わっていないがために、道徳と慣習の違いが理解できず、また道具的攻撃を行う際でも、他人の苦痛に対する自律神経反応が減弱する。
ただ、VIM仮説だけでは、反応郡調節仮説に見られるようなサイコパスの示す多様な障害を説明できない。
また、サイコパスとは逆の恐怖感情が強い気質を持った人の方が、高度な道徳社会化を発達させるので、恐怖システムもまた、道徳や良心の発達に重要な役割を果たしている点は無視できない。

第6章 サイコパスの神経学的仮説
サイコパスの神経学的仮説には、1,左半球活性化(LHA)仮説、2,前頭葉機能不全仮説、3,ソマティックマーカー仮説がある。
左半球活性化仮説によると、サイコパスは言語処理の際に左半球をあまり用いない。
例えば、サイコパスは抽象的なカテゴリー識別が、右視野においては困難になるが、左視野においては良好になる。
聴覚においても、右耳のみに提示した場合、単語理解が困難になる。
左半球に何らかの処理課題(右手だけに課題を与えたり、右視野に負荷をかけたりする課題)により活性化されていると、認知処理の障害が現れる。ただ、左手を用いた場合は、成績が良くなることもある。
こうした傾向は確認できるものの、左半球の活性化とサイコパス特有の認知過程全般の障害がなぜ発生しているかについては、未だはっきりとした理由はわかっていない。
前頭葉機能不全仮説によると、たとえば前頭前皮質に損傷を受けた患者は、多幸、失感情、現在と未来への関心の欠如、攻撃性の増加を示す。
前頭前皮質は、1,背外側、2,眼窩、3,内側に分けられる。攻撃性に関連する部位は眼窩および内側前頭皮質であり、これらの障害が反社会的行動の危険性を高める。
ADHDでは右側の背外則前頭前皮質(DLPFC)-前頭前野-線条体システムの機能不全があることが分かっているが、サイコパスでは背外則前頭前皮質と関連する遂行障害は見られない。
ただ、サイコパスは眼窩前頭前皮質と関連する遂行機能不全を示す。
例えば、プルテウス迷路課題、go/no-go課題、ID/ED課題や応答逆転/消去課題などである。
反応的暴力を示す患者群では、内側側頭葉および前頭前皮質で脳血流(CBF)の低下が見られた。殺人者では、前頭前皮質でCBFの低下が見られ、サイコパスでは、前頭葉と側頭葉の血流量が落ちていた。
嫌悪条件付けに関する研究で、サイコパスでは眼窩前頭前皮質、前帯状回の機能低下が見られたが、社会恐怖の者は逆の反応を示す。情動記憶においても、サイコパスは前帯状回の機能低下を示す。
ソマティックマーカー仮説によると、ソマティックマーカーとは、情動的に重要な意思決定がなされようとしているとき、有効な選択肢に対して、自動的に近付いたり遠ざかったりといったバイアスとして情動反応を引き起こすフィードバックのことである。
腹内側前頭前皮質(眼窩および内側前頭前皮質)がこの集積所としての役割を果たしている。
こうした素早い分類は、体性感覚野を経由して発生し、特定の選択-結果の対に素早く拒否/承認を判断させる。
腹内側前頭前皮質の損傷患者は、災難、身体の切断、裸体像などを眺めても、自律神経反応を示さない。
しかし、絵を描かせるなど、能動的に見る条件においては、適切な自律神経反応を示す。
健常者においては、自分に不利な選択をする際に皮膚電気反応を示すが、腹内側前頭前皮質の損傷患者では、皮膚電気反応は示されない。
ただ、同脳領域が機能不全であるサイコパスでは、災難、身体の切断、裸体像を眺めたときの自律神経反応は多少生じ、ソマティックマーカーが完全には機能していないとは言えない。
サイコパス特有の道具的攻撃が高まる理由についても、包括的な説明とは言えない。

第7章 反応的攻撃の認知神経学的仮説
反応的攻撃は、人間を含むすべての哺乳類に見られる。
脅威から距離があるときは静止し、近くなってくると逃走し、逃げられないほど恐怖に面したときは爆発的に攻撃(反応的攻撃)する。
反応的攻撃が生じる神経構造は、扁桃体内側核→視床下部→中脳水道周囲灰白質(PAG)→反応的攻撃(逃走-闘争)である。
扁桃体からシグナルが送られても、視床下部あるいはPAGが機能していなければ攻撃性は表出されない。ただ、PAGからシグナルが送られると、扁桃体の機能に関わらず反応的攻撃が示される。
ストレス/脅威に関わる神経回路では、視床下部の室傍核(PVN)から副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)→下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ATCH)→副腎からコルチゾール放出される。
また、扁桃体→青斑核→ノルアドレナリンが放出される。
前頭前皮質領域である眼窩、背外則、内側前頭前皮質は反応的攻撃の基本システムである扁桃体視床下部の制御を行っている。
内側、眼窩、腹内側前頭前皮質は、まず期待報酬を算定し、有力であるかの結果をチェックし、損失(社会的嫌悪などを受けること)が予測されれば、競合する別の刺激に注意を増強させる。
これらが障害されると、期待報酬の算定と評価、損失の予測が適切に行われず、欲求不満になりやすい状況が生まれる。人間の場合は地位の高い者から低い者への道具的攻撃を、地位の低い者と動物では反応的攻撃を示しやすい。動物では自分より強い者に対しては衝突を避ける。
眼窩前頭前皮質の領域では、否定的な感情(特に怒り、次いで恐怖と嫌悪)によっても活性化される。人が怒りを感じるように仕向けられたり、他者の不適切なふるまいで怒りを感じさせらりたりするような状況に置かれると活性化される。
環境から脅威を受けていると、基本脅威回路網(扁桃体視床下部→背側PAG)の活性水準が上昇し、反応的攻撃を起こしやすくなる。その場合、現在受ける脅威の程度が弱くても、反応的攻撃を引き起こす。
出生前ストレスや幼児期の愛情剥奪ストレスは、糖質コルチゾイドの反応性を上昇させる。産後直後の不快な体験は、視床下部、海馬コルチゾイド受容体、正中隆起、ストレス誘発性のコルチステロン、ACTHの放出を変化させる。
慢性的なストレスも、ノルアドレナリン放出の増強に影響し、皮質、海馬、扁桃体視床下部、青斑核の受容体の減少を引き起こす。
結果、ノルアドレナリンの反応性と青斑核の活性が高まる。
性的虐待PTSDの患者郡では、基本脅威回路の活性が高いため、反応的攻撃を示す危険性が高まっている。また、不快刺激に対する驚愕反応の上昇がみられる。
基本脅威回路の活性水準が高まっていると、過覚醒があり、脅威に対して極度に敏感になる。そうして、良くない刺激に選択的に注意を向けるようになり、その刺激から注意をそらすことがなかなかできない。そして挑発に対し、反応攻撃を示す。虐待は、敵意バイアスを増大させ、反社会的行動の予測因子となる。
基本脅威回路の反応性が、内因性の要素によって高くなったり低くなったりする場合がある。
うつや不安は反応的攻撃性のリスクを増大させ、不安と反社会的行動には正の相関がある。うつや不安の場合、扁桃体の過活動があり、遺伝的負因があると考えられている。
実験的にセロトニン受容体の活性を高めると攻撃性は下がり、活性を低めると攻撃性は増す。
また、MAOA(モノアミン酸化酵素A)遺伝子に終止コドンを持つ家系では、軽度の精神遅滞と性的攻撃行動がみられる。
MAOAの発現レベルが高いと、虐待の影響が和らげられ、反社会的行動を示しにくいことが分かっている。
フェンフルラミンは、男性だけにおいて攻撃性を低める。トリプトファンは、男性女性両方において攻撃性を低める。
イプサピロンに対する低体温反応が減弱している場合、防衛的怒りを抑制することが難しくなることが明らかになっている。
まとめると、遺伝負因→セロトニン系の(攻撃抑制)機能低下→内側および眼窩前頭前皮質の(抑制系の)機能不全→扁桃体視床下部、PAGにおけるニューロンの反応性上昇→基本脅威回路の感度の上昇→驚愕反応の増強、反応的(防衛的)攻撃にいたる。
また、環境からの脅威の存在→内側および眼窩前頭前皮質の(有力な行動の注意評価選択)機能不全→応答逆転に関わる回路(損失回避)の機能不全→怒りサインの認知の障害、反応的(欲求不満的)攻撃にいたる。
基本脅威回路(扁桃体視床下部、背側PAG)の活性には幼少期の虐待が原因になりえる。

第8章 サイコパスの認知神経学的仮説
サイコパスの第一因子である情動障害は、扁桃体の機能異常による情動学習障害に起因していると考えられる。
情動機能障害が存在すると、目的を達成するために反社会的行動パターンを学習する可能性が高くなる。
扁桃体には、中心核、内側核、皮質核、基底核、副基底核、外側核がある。外側基底核(BLA)として、基底核、外側核、皮質核と中心核(CeN)として、中心核、内側核と分けられる。
統合的情動システム(IES)では、扁桃体とその他領域を結ぶ3つのシステムで説明される。
1,感覚入力にはBLAとCeNの両方に伝わるが、影響を与えるのは嗅皮質、味覚、視床下部、感覚連合皮質野である。
2,情動刺激による内臓機能の調節には、CeNが大部分を占める。
3,目的志向行動に影響を与えるのは、腹内側前頭前皮質、島吻側、吻側側頭皮質、内側視床、腹内側基底核であり、大部分はBLAから延びる。
条件刺激(CS)と無条件反応(UR)の学習には、CeNが必要である。
条件刺激(CS)への情動学習には、BLA→CeNが必要である(感情表象連関)。
条件刺激(CS)と無条件刺激(US)の学習には、BLAが必要である。この連関は扁桃体ではなく島に蓄積される(感覚表象連関)。
条件刺激(CS)と条件反応(CR)の学習には、扁桃体は必要としない。
サイコパスは、嫌悪条件付けが障害されているので、扁桃体の機能不全が示唆される。
また、一般に、驚愕反射は、BLA→CeNを介した感情表象連関により、驚愕反射を調節する脳幹の活動を亢進させることで強化されるが、サイコパスには見られない。
扁桃体の機能不全があると視覚刺激への驚愕反射は起こらないが、眼窩前頭前皮質に損傷がなければ皮膚電気反応(SCR)は示す。
ただ、悲しみの表情や想像上の恐怖場面、恐怖予測、情動喚起する音声に対するSCRの減弱には、扁桃体の機能不全が原因と考えられる。
サイコパストップダウン式の注意の集中が強いが、感情表象連関の形成機能不全があれば、ボトムアップ式の刺激に注意は向けられにくくなる。
つまり、CS(感情表象連関)が対象刺激であれば、健常者が優位であるが、CS(感情表象連関)が妨害刺激であれば、サイコパスが優位になる。
健常者には情動語は扁桃体と側頭皮質を活性化させるが、サイコパスの場合は頭頂皮質の中心部位が反応し、扁桃体と側頭皮質の活性化が減少している。
サイコパスは情動刺激の妨害を受けにくいが、そのフィードバックを課題解決に利用する能力をも障害されている。
運動反応をコード化するユニットは、線条体と運動前野を含む領域である。報酬への期待をコード化するユニットは、内側眼窩前頭前皮質と、前帯状回の前部である。
言語的応答の競合の場合、左の背外側前頭前皮質が関与している。前部が活動反射を司り、後部が競合する言語を選択するが、相互に抑制的に働く。眼窩前頭前皮質は活動反射ユニットに影響を与え、扁桃体や島からのCS(感情表象連関)やCS(感覚表象連関)の予測を基にして、意思決定を行う。
受動回避学習には、CS(感情表象連関)やCS(感覚表象連関)を基にして学習されるので、扁桃体が機能不全だと、受動回避学習は阻害される。
対象識別-反応課題には、CS(感情表象連関)は関係しないので、扁桃体の機能不全は識別課題を阻害しない。
恐怖機能不全仮説によって説明できる嫌悪条件付けや受動回避学習の障害は、IESモデルにおける扁桃体機能不全によるCS(感情表象連関)形成の障害として説明できる。
VIMモデルにおける、恐怖や悲しみの表出を鍵にした道徳社会化もまた、CS(感情表象連関)形成の機能不全として説明できる。
恐怖システムにおける罰に関する情報は、CS(感情表象連関)として蓄積されるが、CS-反応連関(対象識別)に与える影響とは、区別しなければならない。
報酬と罰の刺激学習である受動回避学習などの課題ではCS(感情表象連関)の形成を必要とするので、サイコパスの成績は悪いが、報酬がなく、罰を受けるのみの課題で識別するタイプの受動回避学習では、成績は悪くない。
サイコパスは、良い/悪いといった感情の学習が必要のない識別反応課題ならば、適切にこなすことができる。
VIMの道徳社会化は、CS(道徳違反)-US(他者の恐怖といった嫌悪刺激)や、US(嫌悪刺激)-CS(道徳違反を見たり考えたりする)ことによって活性化され、注意の亢進が生じる。これは扁桃体内部で学習がなされる。
CS-USの連関は、扁桃体でなく島に蓄積される。後天的に扁桃体を損傷した人は、道徳違反が悪であるという認識を失ったり、非道徳的に振る舞う可能性は少ない。
最も道徳社会化を促進させるのは、CS(道徳違反)とUS(被害者の苦痛)との連関を形成させることである。これにより、犠牲者の苦痛という嫌悪反応により、加害者は罰せられる。
サイコパスは、悲しみや恐怖表情の認知処理が障害されているので、無条件刺激(罰)として作用がなされず、道徳社会化は阻害される。
道徳的違反(犠牲者の苦痛に関連)と慣習的違反(社会秩序に関連)との違いは、犠牲者の苦痛の有無であって、サイコパスには判別ができないという結果になる。
驚愕反射において、サイコパスは否定的な先行刺激に対して、健常者とは異なる驚愕反射の抑制傾向が生じるが、肯定的な先行刺激においては、健常者と同様の抑制効果を示す。
情動単語に対しての反応において、肯定的/否定的な意味に関わらず、反応促進効果が見られない。聴覚刺激を用いても同様の結果を示し、皮膚電位反応においては低下反応を示す。
ライミング(促進)効果の障害は、肯定的および否定的なもの両方で障害がみられたが、否定的なものでの障害が特に顕著であった。
ちなみに驚愕反射を抑制する肯定的な視覚刺激は、扁桃体を介さないルートで行われるため、扁桃体の機能障害と無関係であると考えられている。
顔写真を見て、その人が信頼できる人かの判断と、目の周辺だけの情報を用いて社会的情動を識別する課題には、扁桃体の活動が関与しているが、サイコパスでは課題の成績は悪くないので、扁桃体の活動すべてが等しく障害されているわけではないことが示唆される。
扁桃体損傷患者=サイコパスではない。
ストレス/脅威刺激に対するノルアドレナリンの反応機能低下が、サイコパスの悲しみ表情などの嫌悪刺激の強度を低めている可能性もある。
扁桃体は、海馬、上側頭溝、紡錘状皮質、前帯状回、眼窩前頭前皮質と神経接続しているので、入力が弱まれば、隣接する領域の機能低下も招く可能性がある。
サイコパスは、情動記憶に関して扁桃体と前帯状回の機能低下を示す。ただ、ストループ課題のような前帯状回の機能を必要とする課題は障害されていない。
また、眼窩/腹外側前頭前皮質の障害による応答逆転と反応制御課題の障害がみられる。
受動回避学習には扁桃体の関与が必要であるが、応答逆転課題には眼窩前頭前皮質の関与が加えて必要となる。眼窩前頭前皮質の機能不全は、強化に対する予測と結果のずれを評価し選択する機能の障害として現れる。
ちなみに、サイコパスも子供の場合は、応答逆転課題も報酬から罰への変化がはっきりしていれば、健常者と同様にできることがある。成人サイコパスでは障害がはっきりとみられる。
反応制御課題(go/no-go課題など)では、報酬/罰の予測は全くない(扁桃体の関与がない)が、眼窩/腹外側前頭前皮質が障害されていると、反応抑制の障害がみられ、課題成績が悪くなる。
眼窩前頭前皮質は、二つ以上の選択肢がない限りは、機能を必要としないので、嫌悪条件付けや、道具的学習、受動回避学習を障害しない。しかし、応答逆転課題や、go/no-go課題などの種々の障害を含めるなると、サイコパスの障害は、扁桃体の機能不全だけでなく、眼窩前頭前皮質の機能不全の二つの病変によって説明する必要が示唆される。
扁桃体と眼窩前頭前皮質の発達は、独立している可能性があるが、アルコールや薬物乱用の者は、眼窩前頭前皮質の機能低下を招くので、成人サイコパスの眼窩前頭前皮質の機能低下は生活様式に依存するのかもしれない。
また、サイコパスの反応的攻撃性の危険性は、眼窩/腹外側前頭前皮質の障害で欲求不満になりやすいことが原因となっている可能性がある。

第9章 難題と結論
最後に、1,高率に合併する注意欠陥多動障害との関係と、2,扁桃体機能異常である自閉症との関係にふれる。
ADHDには高率でサイコパス傾向が合併するが、サイコパスADHDの認知神経学的障害はみられない。
ADHDではストループ課題(背外側前頭前皮質の障害のため)成績が悪いが、サイコパスはむしろ得意である。ADHDでは色-同定、色-単語干渉の両方の条件で成績が悪く、課題要求表象の活性化がなされていないことが示唆される。
また、ADHDは右の前頭前皮質-線条体システムの機能不全に関連しているが、扁桃体の機能不全とは関連しない。扁桃体の機能不全がない限りは、腹外側前頭前皮質の機能障害による葛藤における欲求不満での反社会的行動の危険性は増大しても、サイコパス特有の道具的攻撃は示さないであろう。
自閉症サイコパスともに扁桃体異常が指摘されているが、サイコパスでは扁桃体の体積は減少し、自閉症では増大する。サイコパスは不安の減少を示すが、自閉症では不安の増大を示す。サイコパスには刺激-罰連関形成能力が障害されているが、自閉症では障害されていない。
自閉症では顔写真の表情と目から社会的情動を識別することに困難を示すが、サイコパスではそうでない。自閉症では、紡錘状回や上側頭溝といった顔の表情認知に関連する部位も障害されていることが原因かもしれない。

サイコパスは、反応的攻撃だけでなく道具的攻撃も行う。これらは神経システムを土台に分離可能であり、意義がある。
サイコパスは、第一因子である情動障害と第二因子である反社会的行動と二つの因子から理解するのが適当である。
反応的攻撃はストレスによる基本脅威回路システムが亢進していれば、多くの疾患で起こりうる。
道具的攻撃を行うのはサイコパスだけで、扁桃体の機能不全による嫌悪刺激(他者の苦痛)への特異的な学習反応の低下が道徳社会化を妨げ、反社会的行動の学習を促進しうる。
サイコパスは少なくとも扁桃体と眼窩前頭前皮質の遺伝負因が想定されるが、前帯状回との関連など、すべてが明確にされているわけではない。

以上。